健康診断は、生活習慣病をはじめ、さまざまな病気の早期発見・早期治療はもちろん、病気そのものを予防することを目的に行われています。
健康診断を毎年何となく受けている、という方も多いかもしれませんが、普段の生活習慣が体に与える影響や、加齢と共に体に起きている変化が、健康診断の結果には出てきます。健康診断の結果を通して「体の中で何が起きているか」をしっかりと把握し、健康を維持するために生活習慣を整えることが大切です。
本記事では、健康診断の結果で特に見るべき、9のチェックポイントをご紹介します。
目次
●健康診断とは
・健康診断の検査内容とオプションの選び方
●健康診断の結果はどう見ればいいか
・1年前の結果と比べた「経年変化」を見る
・基準値と比べる
●健康診断の結果で見るべき9のチェックポイント
・静かに悪化する段階
①BMI(Body Mass Index)
②腹囲
③中性脂肪
④LDLコレステロール
⑤肝機能(AST、ALT、γ-GTPなど)
・症状が出始める段階
⑥血圧
⑦血糖レベル(空腹時血糖値・HbA1c)
⑧尿酸
・高血圧や高血糖が影響する段階
⑨腎機能(尿たんぱく、クレアチニン、eGFR)
●最後に:健康診断の結果を生活習慣の改善につなげる
記事公開日:2024年6月17日
最終更新日:2024年8月14日
健康診断は、全身の健康状態を検査する目的で行われます。
労働安全衛生法などの法律によって実施が義務付けられた「法定健診」(定期検診とも呼ばれます。)と、個人が任意判断で受ける「任意健診」に分けられます。
健康診断の一般健診では、年1回の定期健診があり、診察や尿、血液を採取しての検査、胸や胃のレントゲン検査などの全般的な検査を行います。
なお、40歳、45歳、50歳、55歳、60歳、65歳、70歳の方は付加健診があり、一般健診に、腹部超音波検査・眼底検査・肺機能検査・詳細な血液検査等を追加することができます。
また、一般健診にオプションを加えてさらに検査項目を増やし、病気の早期発見や生活習慣改善などの健康管理に活かすこともできます。
健康診断の結果としてまず確認することは、前回、つまり1年前の結果と比較した「経年変化」です。数値の変化は「体の変化」を表しています。
数値が基準内であっても、前回に比べて数値が悪化していないかどうかをチェックすることが大切で、特に、大きく変化している項目がないかをしっかり確認しましょう。
もし、大きく変化している項目があれば、生活習慣や加齢等の影響により、体に変化が起きている可能性が高いと考えられます。
1年前からの数値の変化と共に、基準値と自分の数値を比べてみましょう。
基準値とは、20〜60歳程度までの健康な人の検査データを統計学的に算出した数値のことです。上限と下限の2.5%ずつを除外したもので、残りの95%の人の数値が基準範囲とされます。つまり、「健康と考えられる人の95%が含まれる範囲」ということになります。
検査後に異常があった場合、より精密な検査が必要となります。また、異常がなくても、数値が悪化している項目があれば、生活習慣を見直すことが、健康な体を維持するために重要です。
健康診断の結果をどのように確認していけば良いかを、9のチェックポイントとして、3段階に分けて解説していきます。
●基準値:18.5 以上 25 未満[※1]
体重と身長の比率を表す指標です。
BMIが高いほど肥満の可能性が高くなり、生活習慣病リスクが高まると言われています。また、肥満や低体重の評価に用いられます。
●基準値:男性 85 cm 未満、女性 90 cm 未満[※2]
へその高さで測る腰まわりの大きさです。
以下の項目などが関係していると考えられます。
■食べ過ぎ
■過度な飲酒
■運動不足
基準値を超えると「内臓脂肪過多」の可能性があります。腹囲の大きさは内臓脂肪の多さを反映していると考えられていますが、個人差が大きく、腹囲が大きくても内臓脂肪は少ないことや、また、その逆もあります。
メタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)とは、上記基準値と共に、高血圧・高血糖・脂質代謝異常のうち2つ以上を確認できる状態を指します。つまり、腹囲が大きいだけでは、メタボリックシンドロームとはいいません。ほとんどの場合、自覚症状がなく、動脈硬化が静かに進みます。動脈硬化が進行すると、心筋梗塞や狭心症、脳梗塞の原因になります。
腹囲が基準値を超えている場合は、その他の血圧、血糖(HbA1Cや空腹時血糖値)、中性脂肪やLDLコレステロールの値も確認しましょう。
●基準値[※3]
空腹時 :150mg/dL未満
随時 :175mg/dL未満
体を動かすための大切なエネルギー源の1つで、体脂肪にも含まれます。
以下の項目などが関係していると考えられます。
■食べ過ぎ
■運動不足
中性脂肪が多すぎると、動脈硬化が加速します。
動脈硬化が進行すると、心筋梗塞や狭心症、脳梗塞の原因になることがあります。
●基準値:120mg/dL未満[※4]
肝臓で作られたコレステロールを全身に運ぶ役割があります。コレステロールは、細胞やホルモン・胆汁酸の材料になりますが、増えすぎると、動脈硬化を進行させます。
以下の項目などが関係していると考えられます。
■食べ過ぎ
■ストレス過多
■肥満
■過度な飲酒
■タバコ
■運動不足
■体質・遺伝
血中のLDLコレステロールが多くなると、吸収されきれずに血管の壁に沈着し、プラークと呼ばれるコブのようなものになります。
そのため血管が狭くなり、動脈硬化を進行させます。
何かのはずみでプラークが破れると出血しますが、自覚症状がないまま進行することも少なくありません。
プラークの破裂により血小板が集まり、血栓ができて、血栓が血液の流れを止めると、心筋梗塞や脳梗塞の原因になります。
●基準値[※5]
AST:~30 IU / L
ALT:~30 IU / L
γ-GTP:~ 50 IU / L
ASTとALTは肝臓の細胞で作られる酵素で、臓器や筋肉などの体たんぱく質を構成するアミノ酸をつくります。
肝臓に何らかのダメージが加わって細胞が破壊されると、血液中にASTとALTが大量に放出され、ASTとALTの血中濃度が上昇します。
このため、血液検査でASTとALT濃度が上昇しているときは、肝臓にダメージがあることが分かります。
また、γ-GTPはタンパク質を分解し、肝臓の解毒作用に関与する酵素の1つです。
飲酒によりアルコール摂取量が多くなったり、胆道に何らかの疾患がある場合に、数値が高くなります。
以下の項目などが関係していると考えられます。
■過度な飲酒
■食べ過ぎ
■サプリメントの摂取過剰
肝臓は「物を言わぬ臓器」とも言われており、痛みを発信する神経が臓器の表面にしかなく、自覚症状がないまま静かに悪化が進みます。
むくみや黄疸などの症状が現れた時には手遅れとなることも少なくなく、肝硬変や肝がんのリスクが高まります。
●基準値:以下参照[※6]
心臓から送り出された血液が血管に与える力が「血圧」です。
心臓が収縮したときに加わる力を「収縮期血圧」、心臓が拡張したときに加わる力を「拡張期血圧」といいます。
以下の項目などが関係していると考えられます。
■食塩のとりすぎ
■肥満
■過度な飲酒
■運動不足
高血圧は動脈硬化の原因のひとつで、高血圧の状態が続くと血管が傷付いたり、心臓に負担がかかり、動脈硬化や腎臓病等の発症につながることもあります。
高血圧は日本人に最も多い生活習慣病で、患者数は推定 4,300万人とされており、成人の2人に1人は高血圧だと考えられます。
血圧が高い状態が続いても自覚症状がないことが一般的ですが、合併症のリスクが高まると、動悸、息切れ、手足のむくみなどの症状が現れることがあります。
●基準値[※7]
空腹時血糖値:〜99mg/dL
HbA1c:~5.5%以下
血液中のブドウ糖の濃度のことです。
1日の中でも、食事などで血糖値は変動しますが、血糖値が下がらないまま高い状態が続くことを、高血糖といいます。
糖の代謝を調節して血糖値を一定に保つ働きを持つインスリンが効きにくくなることで、高血糖となります。
健康診断では絶食後(食後10時間以上)に採血をするため、「空腹時血糖値」が結果として通知されます。
血液中のヘモグロビンのうち、糖と結合しているものの割合を測定した値です。
検査前の食事の影響を受けにくく、過去1~2か月の血糖値の状態を知ることができます。
以下の項目などが関係していると考えられます。
■運動不足
■肥満
■ストレス過多
血糖値が多少高くても、基本的には症状はありません。
しかし、血糖値が高い状態が続くと、血液の粘度が高くなり、血管内をスムーズに流れにくくなります。
その結果、血管が詰まりやすくなったり、血液中のコレステロールを変化させたり、血小板を活性化させて血栓を作りやすくしたり、血管に関係する病気のリスクを高めることになります。
血管の壁が傷付き、動脈硬化が進行すると、心筋梗塞や狭心症、脳梗塞の原因になります。
糖尿病は、インスリンが十分に働かないために、血液中のブドウ糖(血糖)が増えてしまう病気です。
自覚症状として、「喉がとても渇く」「尿が多い」「手足のしびれ」「だるさ」などがあります。
糖尿病は、動脈硬化を原因とする疾患の発症や死亡リスクを2〜3倍増加させることが分かっています。
●基準値:2.1-7.0㎎/dl[※8]
古い細胞が壊される際に生まれる「プリン体」という物質が、体内で分解されてできるのが尿酸です。主に腎臓から尿に混じって体外に排出されます。尿酸が血液に溜まりすぎていないかどうかを、尿酸値で確認します。
以下の項目などが関係していると考えられます。
■食べ過ぎ
■過度な飲酒
■ストレス
■肥満
尿酸値の高い状態が続くと、血液中で結晶を作り始め、関節などにたまり、炎症を引き起こします。その結果、痛風、腎機能障害や尿路結節などの原因になります。
●基準値
尿たんぱく:15mg/dl以下[※9]
クレアチニン
・男性: 0.61〜1.04 mg/dL
・女性: 0.47〜0.79 mg/dL
eGFR:60ml/分/1.73㎡以上[※11]
腎臓の主な働きは尿を作ることです。
1日の尿量は約1.5リットル程ですが、腎臓の中では1日に約150リットルもの尿が作られており、不要なものだけを尿として排出しています。
体の状態に合わせて再吸収する量などを調節し、体内の環境を最適な状態に整えています。
このように、血液中の老廃物や塩分を「ろ過」し、尿として身体の外に排出する働きをしているのが、糸球体です。
たんぱく質は身体に必要な物質であるため、通常尿に混じることはありませんが、糸球体の働きが悪くなると、尿中にたんぱく質が漏れ出てくるようになります。
体内の老廃物の1つで、腎機能が正常であれば血液中から取り除かれ、尿として体外へ排出されます。
しかし、腎機能が低下すると、身体の外にクレアチニンが排出されず、血中濃度が高くなります。
糸球体ろ過量を示す値で、糸球体が血液をどれだけろ過できているのかを示す値です。
以下の項目などが関係していると考えられます。
■糖尿病
■高血圧
腎臓の機能が低下すると、老廃物を十分排出できなくなります。この結果、体内に不必要なものや、体にとって有害なものが溜まり、腎不全のリスクを高めます。
腎不全になると、カリウムが尿として排出されず、血中にカリウムが多くなります。カリウムの血中濃度が異常に高くなると、心臓が止まることもあり、注意が必要です。
生活習慣病とは、厚生労働省によると「食事や運動、休養、喫煙、飲酒などの生活習慣が深く関与し、それらが発症の要因となる疾患の総称」とされています。日本人の死因の上位を占める、がん・心臓病・脳卒中は生活習慣病に含まれており、認知症も生活習慣の1つと言われています。
生活習慣病の多くは自覚症状がないまま進行し、「沈黙の殺人者」「サイレント・キラー」と呼ばれることもあります。つまり、しっかりと健康診断の結果を確認することが、生活習慣病への対策として重要であると言えます。
また、体の健康診断だけではなく、脳の老化に先行して、30代より萎縮の始まる「海馬」の大きさをAIで計測できる検査もあります。海馬は脳の中で唯一、神経が生まれ変わり、生活習慣の見直しにより何歳になっても萎縮を抑えて大きくすることができます。
※関連記事:
記憶をつかさどる「海馬」の大きさを測る脳検査「BrainSuite」
生活習慣の見直しにより体も脳も健康にできる一方、生活習慣の悪化は、体だけではなく脳の萎縮にもつながることが分かっています。健康診断の結果を踏まえて予防行動につなげることが、体の健康にも、脳の健康にもつながります。
※関連記事:
認知症対策に。予防行動を意識した生活習慣で海馬の萎縮を抑える方法とは
人生100年時代、健康診断で自分の健康状態を確認し、予防行動につなげていくことで、健康の不安を和らげ、より良い人生につなげていただければと思います。
健康診断を受けることのできる、BrainSuite導入施設一覧
引用文献
[※1]日本肥満学会
[※2]メタボリックシンドローム診断基準検討委員会. メタボリックシンドロームの定義と診断基準. 日本内科学会雑誌; 2005;94:188-203.
[※3]動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版
[※4]標準的な健診・保健指導プログラム(令和6年度版)
[※5]標準的な健診・保健指導プログラム(令和6年度版)
[※6]日本高血圧学会高血圧治療ガイドライン作成委員会(編).高血圧治療ガイドライン2019.ライフサイエンス出版:東京,p18, 2019.
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/metabolic/m-05-003.html
[※7]標準的な健診・保健指導プログラム(令和6年度版)
[※8]日本人間ドック・予防医療学会
[※9]e-ヘルスネット
[※10]日本人間ドック・予防医療学会
[※11]標準的な健診・保健指導プログラム(令和6年度版)