認知症への早めの対策として、予防行動を意識した生活習慣で海馬の萎縮を抑える方法について解説します。
目次
●早期対策と予防行動の重要性
・認知症は生活習慣病のひとつ
・海馬の萎縮と認知症
・アミロイドβは認知症を発症する20年ほど前から蓄積
・認知症への早めの対策として、脳に良い生活習慣・予防行動を
●予防行動 10選
1. 継続的に有酸素運動をする
2. 十分な睡眠をとる
3. バランスの良い食事をとる
4. ストレス管理をする
5. 楽しく会話する
6. 知的好奇心をもって物事に取り組む
7. 禁煙する
8. 過度な飲酒を控える
9. 定期的に健康診断を受ける
10. 脳の健康状態を確認する
●最後に
記事公開日:2024年4月22日
最終更新日:2024年10月17日
認知症は神経変性疾患の一種で、脳の神経細胞の働きが悪くなることで、脳の機能が徐々に低下します。認知症になると記憶力や集中力といった認知機能が低下し、日常生活に支障が出ます。
認知症には大きく分けて4種類あります[※1,2]。
1.アルツハイマー型認知症(60~70%)
2.レビー小体型認知症(5%)
3.脳血管性認知症(15~20%)
4.前頭側頭型認知症(数%)
認知症は生活習慣の影響も大きく、一種の生活習慣病とも言われています。
実際、認知症リスク因子の40%以上を占めると言われている「後天的リスク因子」は、運動・食事・睡眠等の生活習慣の改善や、人とのコミュニケーションによって減らすことができることが分かっています[※3]。健康なうちから生活習慣に気を付けて予防行動を行うことが、早めの対策につながります。
特に、認知症全体の75%~90%を占めるアルツハイマー型認知症と脳血管性認知症は、生活習慣との関連が大きいと考えられています。
不健康な⽣活習慣が重なることは、糖尿病や⾼⾎圧症などの⽣活習慣病のほか、記憶をつかさどる海⾺の萎縮要因になりえます。
海馬は脳の老化に先行して30代から萎縮が始まります[※4]。そのため、対策を行わなければ認知機能の低下が進み、認知症リスクが高まると言われています。
その一方で、海馬は脳の中で唯一、神経新生(神経の生まれ変わり)が起きる部位でもあります。何歳になっても海馬の萎縮を抑えて、大きくすることができます。
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「これからの人生で最も若い日」は今日です。認知症への早めの対策として、生活習慣を改善し予防行動を行うことを心掛けてみてはいかがでしょうか。
脳内ではアミロイドβというたんぱく質が作られます。健康な人の脳にも存在し、通常は短期間で分解、排出されます。
しかし、睡眠不足や運動不足等で悪い生活習慣が続くと、アミロイドβは排出されずに脳に蓄積されます。アミロイドβが蓄積されると、タウタンパクがリン酸化して溜まり、神経細胞が死滅して情報の伝達ができなくなります。結果、海馬の萎縮が進んで認知機能が低下し、アルツハイマー型認知症のリスクが高まると言われています。
アミロイドβの蓄積は認知症を発症する20年ほど前から始まる[※5]と言われており、この点からも、健康なうちから生活習慣を改善し予防行動を心掛けることが、早期認知症対策につながると言えるでしょう。
2023年から、認知症の新薬「レケンビ」(一般名「レカネマブ」)の発売が開始されました。アルツハイマー病による軽度認知障害(MCI)及び軽度認知症向けの薬で、脳内に蓄積されたアミロイドβを除去することによって、症状の進行を直接抑制する効果が期待出来ます。しかし、進行抑制効果は27%に留まり、根本的に治療できるわけではありません[※6]。
また、認知症患者は2025年に約471.6万人いるとされており、2030年に約523万人、2060年には約645万人まで増えると推計されています。これに対し、レカネマブの対象候補者数は約3.2万人に留まっています[※7]。
この点からも、健康なうちから生活習慣を改善して予防行動を心掛け、認知症への早めの対策を行うことが重要だと言えるでしょう。
認知症への早めの対策として、代表的な「予防行動」10選をご紹介します。
早いうちから良い生活習慣を予防行動として取り入れることは、高血圧、脂質異常症、糖尿病といった生活習慣病のみならず、認知症への対策にもつながります。
有酸素運動をすると脳血流が上昇し、血液を通じて脳へ酸素や栄養素が行き渡るようになり、脳の働きそのものが活性化されます。
また、継続的な有酸素運動により、BDNFと呼ばれる血中脳由来神経栄養因子の濃度が上昇します。このBDNFの上昇が、海馬の神経新生(神経の生まれ変わり)を促進することが明らかになっています[※8]。
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認知機能低下や認知症への早めの対策として、十分な睡眠時間を確保し、質の良い眠りを得られるような工夫を取り入れましょう。
睡眠不足が長く続くと、腸内に活性酸素が蓄積し、免疫機能が低下するため、身体全体のバランスを保つ機能が損なわれていくことが明らかになっています。ガンや生活習慣病、自己免疫疾患のリスクが高まることも報告されています。
一般的に、睡眠時間が6時間より短くなると睡眠が足りていない状態であると言われています。ただし、人によっては6時間以下でも十分な睡眠機能が発揮できている場合もあるようです。また、8時間以上寝ないと思うように活動できない人もいます。これらは、睡眠の個性なのです。
自分の身体が必要とする睡眠時間を把握することは、脳の健康を保つためにはとても大切なことです。時間に追われず睡眠と向き合う日を作ってみてはいかがでしょうか。
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人の脳は、1日に消費するエネルギー量の20%を消費しています。多くのエネルギーを必要とする脳に、糖質(ブドウ糖)以外の栄養素を供給することで、より脳の機能を維持することができます。
「これを食べたら大丈夫」という特定の食べ物はありませんが、日本食や地中海料理は多品目で、栄養バランスが良いとされています。糖質、タンパク質、脂質といった三大栄養素に加え、ビタミン、ミネラル、食物繊維を摂取するなど、「食品摂取の多様性」を意識して食材選びをしましょう。
生活習慣病の対策としては、特に血糖値が急激に変動しないようにすることが重要で、以下のことを意識すると良いと言われています。
・お米はゆっくりと消化、吸収されるため、急激な血糖値の変動を防ぐことができ、腹持ちがよく、エネルギーを安定して脳に送ってくれます。
・よく噛んでゆっくり食べることは、血糖値の急激な変動を抑えることにつながります。
・野菜を意識してとり入れることが良く、ベジタブルファースト(野菜から食べ始めること)が血糖値の急激な変動を抑えることにつながります。
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ストレスが増えると、コルチゾールというストレスホルモンの一種が分泌過多となり、海馬の萎縮リスクが高まり、海馬の神経新生(神経の生まれ変わり)も抑制されることが分かっています[※9]。海馬の萎縮が進行した場合、「もの忘れ」などの症状として現れます。
ストレスを感じることは自然なことです。そのため、ストレスを発散する機会を定期的に作るなど、ストレスと上手く付き合っていくことが大切です。
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医学的に、社会と関わりを持つことは海馬を萎縮させるストレス要因を低下させ、他人との交流による刺激が脳内神経ネットワークを活性化させることがわかっています。
また、コミュニケーションを積極的にとることで、脳の構造自体が変化し、脳の機能を高めることもわかっています。
会話を楽しむことは脳に良い刺激となり、脳の広い範囲が活性化されます。相手の話を理解したり、相手を思いやって話したりすることで、脳に強い刺激を与えます。
特に、積極的に会話をすることで、何歳になっても海馬や前頭葉が活性化することがわかっています。
家族、友人、同僚など、様々な方との会話を楽しみ、脳を元気にする習慣を心掛けましょう。
知的好奇心をもって物事に取り組むことは、脳にも良い影響を与えることがわかっています[※10]。強い好奇心により、ストレスが軽減し、また、脳の可塑性が上昇し、海馬の萎縮抑制・脳健康の維持につながります。
趣味を楽しむ、新しい知識や言語を学ぶなどは、人生を豊かにする上でも大切なことです。
たばこには5,300種類以上の化学物質と70種類以上の発がん物質が含まれており、様々な生活習慣病を引き起こすほか、多くのがんの原因にもなります。喫煙開始が早いほど、ニコチン依存症の程度が強くなり、喫煙本数が増え、禁煙しにくくなると言われています。
喫煙は、認知症のリスクを約2~3倍も高め、アルツハイマー型認知症、脳血管性認知症のいずれとも関係しています[※11]。また、喫煙は脳卒中や骨折などのリスクを高め、結果として要介護になるリスクを高めることも分かっています。
過度な飲酒は脳に様々な悪影響を及ぼし、認知機能の低下につながる可能性もあります。特に、アルコール依存症に陥ると、認知機能が低下するだけではなく、日常生活に支障をきたします。
「お酒を飲みすぎて記憶がなくなる」といった短期的な記憶障害も、アルコールによって海馬の働きが鈍ることから生じる現象です。
また、生涯飲酒量が多いほど、飲酒に起因する肝硬変などのアルコール性肝障害になるリスクも高まると言われています。
愛飲家の方も、節度を持ってお酒と付き合うことで、健康に、そして末永くお酒を楽しめることにつながるでしょう。
定期的に健康診断を受け、体の状態を確認し、生活習慣を改善して予防行動を心掛けることが、脳の健康にもつながると言えるでしょう。40歳になると、特定健康診査(メタボ健診)も始まります。
前述のとおり、認知症リスク因子の40%以上を占める「後天的リスク因子」は生活習慣の改善によって減少します。また、アルツハイマー型認知症の発症よりも20年程前から蓄積が始まると言われているアミロイドβも、生活習慣を改善して予防行動を心掛けることによって蓄積を抑えることができます。
定期的な健康診断を行うことで、自分の体の状態を確認し、生活習慣の見直しにつなげることが重要です。生活習慣の見直し・改善による予防行動が、結果として体と脳の健康を保つことにつながります。
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脳の老化に先行して海馬は30代より萎縮が始まり、特に生活習慣などの良し悪しを敏感に察知して、増大や萎縮といった変化をすると言われています。つまり、海馬の大きさを測ることで、脳の健康状態を確認することができます。
海馬の萎縮が進んでいるかどうかは、脳全体に対して占める海馬の割合である「海馬占有率」を、同性・同年代の海馬占有率と比較することで、確認することができます。
海馬MRI検査「BrainSuiteⓇ」(ブレインスイート)は、海馬の体積を測ることができる検査です。
BrainSuite公式サイト
海馬は小指程度の大きさしかないため、通常のMRIと医師の目視確認だけではその微細な萎縮度合いを判別することは難しく、通常の脳ドックで分かるのは疾病の有無だけでした。
東北⼤学加齢医学研究所の開発したAI画像解析技術に基づき、脳の海馬の大きさを測ることができるようになった検査が、BrainSuiteです。同性・同年代と比較した海馬の萎縮傾向を確認することで、あなたの年齢で維持するべき海馬の大きさを知ることができます。
半年程の生活習慣の改善・予防行動により海馬の大きさに変化が生じ、「脳が若返った」という研究結果もあります。
1年に1回、健康診断のように定期的に検査を受けていただくことで、経年変化をレポートでご確認いただくことができます。
この記事でご紹介したように、運動・食事・睡眠など、様々な要因が絡み合って海馬は萎縮すると考えられています。そして、海馬の萎縮とアルツハイマー型認知症の間には関連性があることも分かっています。
海馬に良い生活習慣を取り入れて予防行動を心掛け、継続することが脳の健康維持につながります。ご自身に合った方法で、無理なく続けられる予防行動から始めてみましょう。
参考文献
[※1]Ikejima, Chiaki et al. “Multicentre population-based dementia prevalence survey in Japan: a preliminary report.” Psychogeriatrics : the official journal of the Japanese Psychogeriatric Society vol. 12,2 (2012): 120-3. doi:10.1111/j.1479-8301.2012.00415.x
[※2]Ohara, Tomoyuki et al. “Trends in dementia prevalence, incidence, and survival rate in a Japanese community.” Neurology vol. 88,20 (2017): 1925-1932. doi:10.1212/WNL.0000000000003932
[※3]Livingston, Gill et al. “Dementia prevention, intervention, and care: 2020 report of the Lancet Commission.” Lancet (London, England) vol. 396,10248 (2020): 413-446. doi:10.1016/S0140-6736(20)30367-6
[※4]Raz, Naftali et al. “Regional brain changes in aging healthy adults: general trends, individual differences and modifiers.” Cerebral cortex (New York, N.Y. : 1991) vol. 15,11 (2005): 1676-89. doi:10.1093/cercor/bhi044
[※5]Jack, Clifford R Jr et al. “Hypothetical model of dynamic biomarkers of the Alzheimer's pathological cascade.” The Lancet. Neurology vol. 9,1 (2010): 119-28. doi:10.1016/S1474-4422(09)70299-6
[※6]van Dyck, Christopher H et al. “Lecanemab in Early Alzheimer's Disease.” The New England journal of medicine vol. 388,1 (2023): 9-21. doi:10.1056/NEJMoa2212948
[※7]
[※8]Erickson, Kirk I et al. “Exercise training increases size of hippocampus and improves memory.” Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America vol. 108,7 (2011): 3017-22. doi:10.1073/pnas.1015950108
[※9]Chattarji, Sumantra et al. “Neighborhood matters: divergent patterns of stress-induced plasticity across the brain.” Nature neuroscience vol. 18,10 (2015): 1364-75. doi:10.1038/nn.4115
[※10]Taki, Yasuyuki et al. “A longitudinal study of the relationship between personality traits and the annual rate of volume changes in regional gray matter in healthy adults.” Human brain mapping vol. 34,12 (2013): 3347-53. doi:10.1002/hbm.22145
[※11]Ohara, Tomoyuki et al. “Midlife and Late-Life Smoking and Risk of Dementia in the Community: The Hisayama Study.” Journal of the American Geriatrics Society vol. 63,11 (2015): 2332-9. doi:10.1111/jgs.13794