記憶力の低下は、多くの人が感じる悩みの1つです。年齢を重ねるにつれて、記憶力が低下しているような気がする、というご経験がある方もいらっしゃるのではないでしょうか。
「固有名詞がなかなか出てこなくて『あれ』を連発してしまう」、「ついさっきまで考えていたことが思い出せない」という経験は、特に30代以上になって感じる方も多いと思います。
本記事では、記憶力を上げるための方法について解説していきます。
目次
1. 記憶力を上げる方法
・ 十分な睡眠時間を確保する
・栄養バランスの良い食事を摂る
・定期的に運動をする
・ストレスを軽減させる
・趣味を楽しむ
・人との交流を盛んにする
・海馬を育てる
・海馬の大きさを測り、記憶力の維持・向上に活かす
2. 記憶力の低下とは?主な原因を解説
・睡眠不足
・運動不足
・食生活での栄養の偏り
・ストレス
・過度な飲酒
・喫煙
3. 今日から始める!仕事や日常で情報を記憶するコツ
・知的好奇心と紐づけて記憶する
・記憶する作業をした後に筋トレを行う
・記憶する作業をした日はよく眠る
4. まとめ:記憶力は上げることができる
記事公開日:2024年10月9日
最新更新日:2024年10月10日
記憶をつかさどる脳の部位「海馬」は、何歳になっても脳の中で唯一神経の生まれ変わりが起き、萎縮を抑えて大きくすることができると言われています。
海馬を健康に保つことが記憶力の維持・向上につながります。海馬の健康には、生活習慣が大きく影響します。生活習慣をどのように見直すと、記憶力の維持・向上につながるのかを解説していきます。
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睡眠中に脳は情報を整理し、記憶を定着させる作業を行います。
睡眠を妨げる原因を取り除き、眠りやすい環境を整えることから始めてみましょう。
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バランスの取れた食事は、海馬の萎縮を抑制し、記憶力の維持・向上につながります。
例えば、和食の回数を増やすことで、魚介類や野菜・穀類などを食事中の品目を増やすなどの工夫を行うと良いでしょう。
一定以上の強度の有酸素運動を半年以上継続すると、海馬に神経の生まれ変わりが起きることが、近年の研究で明らかになっています[※1]。これにより記憶力の維持・向上につながります。
エスカレーターではなく階段を使う、早歩きをするなど、日常的にできることから徐々に始めて習慣化していくと良いでしょう。
また、週2〜3回程度、習慣的に筋トレをすることで、記憶力や集中力が高まることも分かっています[※2,3]。
このため、適切なトレーニングを継続することは、記憶力や集中力に必要となる認知機能向上に効果があると考えられます。
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ストレスとの向き合い方も重要で、深呼吸などを日常的に取り入れることで、ストレスホルモンを抑制[※5]し、海馬の萎縮リスクを低下させます。海馬の萎縮リスクが低下することは、記憶力の維持・向上につながります。
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知的好奇心をもって物事に取り組むことは、海馬にも良い影響を与え、記憶力の維持・向上につながることが分かっています。
趣味を楽しむ、新しい知識や言語を学ぶといったことは、人生を豊かにする上でも大切なことです。
ずっとやりたいと思っていた趣味を始めてみる、昔やっていた趣味を再開してみる、学生時代に没頭していたことを再開してみるといったことから始めてみてはいかがでしょうか。
社会と関わりを持つことは海馬を萎縮させるストレス要因を低下させ、他人との交流による刺激が脳内神経ネットワークを活性化させることが分かっています。
コミュニケーションを積極的にとることで脳の構造自体が変化し、脳の機能を高め、記憶力の維持・向上につながります。
前述のとおり、一定以上の強度の有酸素運動を継続することが、海馬の育成につながります。海馬が活性化する有酸素運動を継続すると、記憶力の維持・向上につながるだけでなく、「ストレス(ココロ)」や「生活習慣病(カラダ)」にも効果があるといわれています。
当社が開発中の海馬を育てるアプリ「BrainUp(ブレインアップ)」は、海馬が活性化する運動である「ブレインアップ運動」の習慣化をサポートし、海馬を萎縮させない生活習慣を身に付けるためのアプリです。
関連サイト:
BrainUp(ブレインアップ)公式サイト
弊社で行った臨床研究の結果では、ブレインアップ運動により、糖尿病の指標として重視されるヘモグロビンA1c(HbA1c)や、血圧の改善に対して有意な結果が得られています。
つまり、記憶力の維持・向上につながる生活習慣を身に付けることは、体全体にも良いと言えるでしょう。
東北大学加齢医学研究所の20年以上の研究成果に基づき、従来の脳ドックでは計測出来なかった、健康なうちからの海馬の大きさをAIで測定できる検査が「BrainSuite(ブレインスイート)」です。
※関連サイト:
BrainSuite(ブレインスイート)公式サイト
海馬は左右に一対ずつあり、小指程の大きさしかないため、健康なうちの微細な萎縮度合いは従来は計測できませんでした。
BrainSuiteの結果レポートでは、海馬の体積と共に、同性・同年齢との比較や、経年変化シミュレーションを確認することができます。
海馬の萎縮が進行しているか、あるいは抑制できているかを確認し、生活習慣の見直しにより海馬を育てることは、記憶力の維持・向上につながります。
記憶力の低下には、海馬の萎縮が大きく影響しています。海馬は脳の老化に先行して30代より萎縮が始まると言われています[※6]。
海馬の老化が進み、記憶力の低下につながる主な原因は以下6点です。
1. 睡眠不足
2. 運動不足
3. 食生活での栄養の偏り
4. ストレス
5. 過度な飲酒
6. 喫煙
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睡眠不足は身体への負担を増加させ、ストレス増加・免疫力の低下をもたらすことが報告されています。さらに、睡眠不足により海馬での神経の生まれ変わりが抑制されることがわかっており、記憶力の低下につながります。
有酸素運動を行うと、海馬に神経の生まれ変わりが生じますが、運動不足ではこうした機会を得ることができず、加齢と共に海馬の萎縮が進みます。
また、運動不足等で悪い生活習慣が続くと、アミロイドβというたんぱく質が排出されずに脳に蓄積されます。アミロイドβが蓄積されると、アミロイドβの出す毒素で神経細胞が死滅して情報の伝達ができなくなります。これにより脳の萎縮が進むことで、認知機能が低下し、記憶力の低下につながります。
食生活での栄養に偏りがあると、脳健康にも悪影響を及ぼしているかもしれません。
特にコンビニエンスストアでの超加工食品(カップ麺、菓子パン、冷凍食品といった、加工の度合いが高い食品)は、カロリーが高い割に栄養素が偏っていると言われています。栄養成分としては、健康の悪化につながってしまうような飽和脂肪酸、トランス脂肪酸、精製された炭水化物、食品添加物の使用や、食物繊維の不足といった問題点が挙げられます。また、塩分が多くなってしまうことも考えられます。
こうした食品の摂りすぎなどで栄養に偏りがあると、記憶力などの認知機能の低下リスクを高める要因にもつながると言われています。
ストレスが増えると、コルチゾールというストレスホルモンの一種の分泌が過多となり、海馬の萎縮リスクが高まり、海馬での神経の生まれ変わりが抑制されることが分かっています。海馬の萎縮が進むと、記憶力の低下につながります。
過度なアルコールの摂取は、脳にさまざまな悪影響を及ぼします。大量のアルコールを摂取し続けると、認知機能の低下が起こる可能性があります。特に、アルコール依存症に陥ると、記憶力が低下し、日常生活に支障をきたします。
また、「お酒を飲みすぎて記憶がなくなる」といった短期的な記憶障害も、アルコールによって海馬の働きが鈍ることから生じる現象です。
以上のような要因によって海馬が萎縮が進むと、記憶力の低下につながります。
たばこには5,300種類以上の化学物質と70種類以上の発がん物質が含まれており、様々な生活習慣病を引き起こすほか、多くのがんの原因にもなります。喫煙開始が早いほど、ニコチン依存症の程度が強くなり、喫煙本数が増え、禁煙しにくくなると言われています。
喫煙は、認知症のリスクを約2~3倍も高め、アルツハイマー型認知症、脳血管性認知症のいずれとも関係しています。
これまでの内容を踏まえて、仕事や日常で情報を記憶するコツについて、ご紹介します。
海馬に良い生活習慣を意識して心がけながら、記憶するときに具体的に以下のようなポイントを抑えていくと良いでしょう。
知的好奇心を刺激する時間は、脳を使うことで脳内神経ネットワークを活性化させ、ドーパミンという神経伝達物質を分泌させます。このドーパミンが記憶力の向上や脳の萎縮抑制に有効であることがわかってきています。
つまり、「記憶したいこと」を知的好奇心と紐づけることで、脳を活性化させて、楽しみながら記憶することができます。
例えば、以下のように「記憶したいこと」と、「興味や関心のあること・好きなこと」を紐づけると良いでしょう。
・「興味や関心のあること・好きなこと」との関連性をイメージしながら覚える
・「興味や関心のあること・好きなこと」にどのように活かすことができるかを考えながら覚える
・「記憶したいこと」の背景にある事象や原因を想像しながら、そのイメージと共に覚える
・「記憶したいこと」の言葉や数字の並びを、「興味や関心のあること・好きなこと」と語呂合わせして関連付けて覚える
また、知的好奇心と紐づけることで、ひらめきやアイデアが出てくることもあると思います。こうした、ひらめきやアイデアは忘れないように、メモをしておくと良いでしょう。
メモをすることで忘れずに見返すことができますし、視覚情報となることで更に新しい発想につながる可能性もあります。
単語を覚えた後に筋トレを行うと、単語を覚えてから2日後に思い出せる単語の数が増えることが、報告されています[※4]。
勉強をしてアタマを使ったら、覚えた内容を記憶に定着させるために一度筋トレを挟む、ということを、ぜひ実践してみてください。
また、勉強に限らず、アタマを使う知的作業を行った時にも、記憶の整理のために筋トレを行うと良いでしょう。
睡眠のなかでも「レム睡眠」と呼ばれる状態では、体が休息状態となり、脳は思考の整理や記憶の定着を行います。このため、レム睡眠は記憶の定着に重要になります。
レム睡眠の効果を得るためには、睡眠時間をしっかりとることが必要になります。「レム睡眠」と「ノンレム睡眠」のサイクルを一晩で4〜5回繰り返すことのできる、6〜8時間の睡眠時間を確保することが理想的と言われています。
また、睡眠の深さは入眠から徐々に浅くなるため、最初の90分で身体が熟睡モードになる「ノンレム睡眠」を深く取ることが、睡眠の質を向上させることになります。
「学生時代、試験前に半徹や徹夜をして覚えた」という経験は多くの方があるかと思いますが、実は覚えたことを整理し、そして、記憶に定着させるためには「よく眠る」ということが重要になる、と言えます。
生活習慣を見直して海馬の萎縮を抑えることが、記憶力の維持・向上につながります。
その一方で、生活習慣によっては海馬の萎縮が加速し、記憶力の低下につながることもあります。
本記事でご紹介した、記憶力の維持・向上につながる生活習慣の見直しはこちらの8点です
。
1. 十分な睡眠時間を確保する
2. 栄養バランスの良い食事を摂る
3. 定期的に運動をする
4. ストレスを軽減させる
5. 趣味を楽しむ
6. 人との交流を盛んにする
7. 過度な飲酒をしない
8. 喫煙を控える
記憶力の維持・向上につながる生活習慣の見直しを行いながら、仕事や日常で情報を記憶するコツとしてこの3点を意識して実行してみてはいかがでしょうか。
1. 知的好奇心と紐づけて記憶する
2. 記憶する作業をした後に筋トレを行う
3. 記憶する作業をした日はよく眠る
まず、出来ることから少しずつ始めてみることが、記憶力を上げるための第一歩になります。
ぜひご参考にしてみてください。
参考文献
[※1]Erickson, Kirk I et al. “Exercise training increases size of hippocampus and improves memory.” Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America vol. 108,7 (2011): 3017-22. doi:10.1073/pnas.1015950108
[※2]Soga K, Masaki H, Gerber M, Ludyga S. Acute and Long-term Effects of Resistance Training on Executive Function. Journal of Cognitive Enhancement. 2018 Jun 1;2(2):200–7.
[※3]Landrigan, Jon-Frederick et al. “Lifting cognition: a meta-analysis of effects of resistance exercise on cognition.” Psychological research vol. 84,5 (2020): 1167-1183. doi:10.1007/s00426-019-01145-x
[※4]Hashimoto, Teruo et al. “Enhanced memory and hippocampal connectivity in humans 2 days after brief resistance exercise.” Brain and behavior vol. 14,2 (2024): e3436. doi:10.1002/brb3.3436
[※5]Perciavalle, Valentina et al. “The role of deep breathing on stress.” Neurological sciences : official journal of the Italian Neurological Society and of the Italian Society of Clinical Neurophysiology vol. 38,3 (2017): 451-458. doi:10.1007/s10072-016-2790-8
[※6] Raz, Naftali et al. “Regional brain changes in aging healthy adults: general trends, individual differences and modifiers.” Cerebral cortex (New York, N.Y. : 1991) vol. 15,11 (2005): 1676-89. doi:10.1093/cercor/bhi044