現代社会において忙しい日常をおくっている方は多く、十分な睡眠時間を確保することが難しいと感じている方も多いかと思います。特に、仕事や家庭などで責任が重なると、睡眠時間は削られてしまいがちです。
その一方で、質の高い睡眠は、健康や仕事のパフォーマンスに直結しますので、睡眠の時間をどう確保したらいいのか、どのようにすれば睡眠の質を高められるか、と悩んでいる方もいらっしゃるのではないでしょうか。
本記事では、記憶をつかさどる脳の「海馬」と睡眠の関係から理想的な睡眠時間とその質を向上させる方法まで、脳科学をもとに詳しく解説します。
目次
1. 睡眠の基本:なぜ睡眠が重要なのか
2. 睡眠不足も影響する海馬の萎縮
3. 理想の睡眠時間:あなたに最適な睡眠時間とは
4. 睡眠の質を向上させる方法
5. 睡眠が脳に与える影響
6. 睡眠の影響を、海馬の大きさから確認する
記事公開日:2024年10月10日
最新更新日:2024年10月10日
睡眠は単なる休息の時間ではなく、体と脳をメンテナンスするために重要なプロセスです。
睡眠中に脳は情報を整理し、記憶を定着させる作業を行います[※1]。
また、身体は細胞の修復や成長ホルモンの分泌を通じて、疲労を回復させます。この活動により、私たちは日中の活動に必要なエネルギーを取り戻すことができます。
睡眠不足は短期的には海馬の活動に影響を与え、記憶力の低下を引き起こし[※2]、長期的には認知症のリスクを高めます[※3]。
最近では、睡眠負債という概念が注目されています。睡眠負債とは、睡眠不足が蓄積されることで、健康に深刻な影響を及ぼす現象のことです。
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海馬とは?!記憶をつかさどる脳の海馬について徹底解説
睡眠不足は身体への負担を増加させ、記憶力の低下をもたらすことが報告されています。
睡眠不足によってストレスが増えると、海馬の萎縮リスクが高まります。海馬は脳の老化に先行して30代より萎縮が始まります[※4]が、その萎縮度合いが加速します。
睡眠を妨げる原因を取り除き、眠りやすい環境を整えることから始めてみましょう。
睡眠時間を十分に取っている子どもは、睡眠時間が短い子どもに比べ、海馬の体積が大きいことも分かっています[※5]。
海馬の体積が大きいことは、その後の人生におけるいくつかの病気を回避する上でも重要である可能性があり、子どもの時の十分な睡眠が健やかな脳の発達を促進する上で重要だと考えられます。
一般的に、成人が必要とする睡眠時間は6〜8時間と言われていますが、個人差があります。
あなたにとって理想的な睡眠時間を見つけるためには、睡眠と体調・パフォーマンスとの関係に注目してみると良いでしょう。
例えば、スマートウォッチなどを活用して睡眠データをトラッキングすることで、どの位の睡眠時間が自分にとって最適かを見出していくことができます。
具体的には、スマートウォッチを装着したまま寝ることで、端末によっては睡眠中の心拍変動・皮膚温を計測することができます。
睡眠中の心拍変動の度合いが低いほど、また、皮膚温の下がる度合いが大きいほど、自律神経が乱れてストレスや疲れが溜まっている可能性が高いと考えられます。
このような場合はより十分な睡眠が必要な状態だと言えるでしょう。
これらと合わせて睡眠の質やスコアを確認してみましょう。
疲れやストレスが多い日に、十分な睡眠の質やスコアが取れているかどうかは、十分な睡眠が取れているかどうかを確認することに役立ちます。
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質の高い睡眠を得るためには、いくつかの習慣を取り入れることが効果的です。ポイントをご紹介しますので、出来ることから始めてみましょう。
➀規則正しい生活を身に付け、体内時計を整える
・就寝時間、起床時間を毎日なるべく同じくらいの時間にする。
・朝起きたら日光を浴びる。
➁室温、湿度を調整
・就寝前の入浴や運動は避ける。
・室温、湿度を調節する。
➂散歩やランニングなどの軽い運動習慣を取り入れる
但し、軽い運動は就寝の3時間以上前に実施する。
※参考記事:「運動脳」で話題!運動で体と共に海馬も鍛えられる理由を解説
➃照明や音を調整
・就寝前に部屋の照明を暗くする。スマートフォンやテレビは、就寝前の1時間は見ないようにする。
・騒音は睡眠の質を下げるため、できるだけ静かな環境で眠るようにする。
➄自分に合った寝具を選ぶ
・ベッドや布団の硬さ、枕の高さや硬さを自分の身体に合ったものにする。
・寝具は寝返りを妨げないものを選ぶ。
➅就寝前の3~4時間以内に、カフェイン飲料・アルコール飲料をとらない
・カフェインの影響で睡眠の質が下がったり、中途覚醒に繋がるため、就寝前のカフェイン・アルコールの摂取は避ける。
睡眠は、脳や体の状態により、レム睡眠とノンレム睡眠の2種類に分けられます。
レム睡眠では、体が休息状態となり、脳は思考の整理や記憶の定着を行います。このため、レム睡眠は脳の発達や精神的な安定に欠かせません。
レム睡眠の効果を得るためには、睡眠時間をしっかりとることが必要になります。このため、レム睡眠とノンレム睡眠のサイクルを一晩で4〜5回繰り返すことのできる、6〜8時間の睡眠時間を確保することが理想的と言われています。
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ノンレム睡眠では、脳が休息状態になります。一方、体は寝返りをうち、体組織の修復や成長ホルモンの分泌を促進させ、疲労が溜まっている部位の回復を行います。
睡眠は、レム睡眠とノンレム睡眠を90~120分で交互に繰り返します。睡眠の深さは入眠から徐々に浅くなるため、最初の90分で身体が熟睡モードになるノンレム睡眠を深く取ることが、睡眠の質を向上させることにつながります。
海馬の大きさを測る検査「BrainSuite」では、これまで計測できなかった健康なうちからの海馬の大きさを、東北大学加齢医学研究所の研究成果に基づいたAI画像解析技術により計測できます。
※関連サイト:
BrainSuite(ブレインスイート)公式サイト
海馬は脳の老化に先行して30代より萎縮が始まる一方で、脳の中で唯一神経新生が起き、萎縮を抑えることができ、大きくすることもできる部位です。このため、海馬の大きさを測ることで、脳の健康状態をみることができるのです。
睡眠不足によりストレスが増えると、海馬の神経新生が抑制されることが分かっています。BrainSuiteの結果レポートでは、現在の生活のストレスが海馬に与えている影響を、海馬の大きさや同性・同年齢との比較レポートにより確認することができます(※)。
※海馬の状態には睡眠やストレスの他、運動習慣や食事などの生活習慣の影響があり、個人差があります。
十分な睡眠時間と睡眠の質を確保し、体と脳をしっかりとメンテナンスすることが、日中のパフォーマンスや健康そのものに影響します。
最適な睡眠時間とその質には個人差がありますが、本記事を参考にしていただき、睡眠の工夫を取り入れてみてはいかがでしょうか。
参考文献
[※1]Axmacher, Nikolai et al. “Memory processes during sleep: beyond the standard consolidation theory.” Cellular and Molecular Life Sciences : CMLS vol. 66,14 (2009): 2285-97. doi:10.1007/s00018-009-0019-1
[※2]Yoo, Seung-Schik et al. “A deficit in the ability to form new human memories without sleep.” Nature Neuroscience vol. 10,3 (2007): 385-92. doi:10.1038/nn1851
[※3]Sabia, Séverine et al. “Association of sleep duration in middle and old age with incidence of dementia.” Nature Communications vol. 12,1 2289. 20 Apr. 2021, doi:10.1038/s41467-021-22354-2
[※4]Raz, Naftali et al. “Regional brain changes in aging healthy adults: general trends, individual differences and modifiers.” Cerebral Cortex (New York, N.Y. : 1991) vol. 15,11 (2005): 1676-89. doi:10.1093/cercor/bhi044
[※5]Taki, Yasuyuki et al. “Sleep duration during weekdays affects hippocampal gray matter volume in healthy children.” NeuroImage vol. 60,1 (2012): 471-5. doi:10.1016/j.neuroimage.2011.11.072