子供から高齢者まで、どの年代でも運動が脳の健康を守るために重要であるということが分かってきています。
運動で体と共に海馬も鍛えられる理由、そして、脳神経の成長・脳の大きさの増加や脳活動の活性化につながるメカニズムについて解説します。
目次
1.運動と脳の認知機能の関係
運動は老若男女すべての方の脳の健康を促進
運動によって、脳の認知機能が向上するメカニズム
2.運動でカラダを鍛えることは、すなわち脳を鍛えること
継続的な運動による、脳の認知機能の向上
運動によって、脳の認知機能をより向上させるためのポイント
3.脳の健康を「見える化」してモチベーションを高めよう
記事公開日:2024年7月16日
最新更新日:2024年9月9日
健康のために運動が大切であるということは、誰もが納得するでしょう。
実は、運動習慣は体の健康だけではなく、脳の健康を守るためにも重要であることが、過去20年以上にわたる研究において分かっています(1)。
近年では「スマホ脳」と共に「運動脳」(いずれも、アンデシュ・ハンセン著)がベストセラーになっています。
子供から高齢者まで、どの年代でも運動が脳の健康を守るために重要であるということが分かってきています。
認知機能の低下は、私たちの生活の質を低下させる可能性があります。例えば、物覚えが悪くなったことや集中力が続かないことによって、日常生活でのミスや非効率な仕事などにつながることもあります。
その一方で、例えば、注意欠陥・多動症(ADHD)を持つ子供の認知機能も運動によって向上できることが、明らかにされています(2)。
また、高齢者であれば加齢に伴う認知機能の低下や、認知症への不安に直面することが考えられます。これらの加齢に伴う認知機能低下についても、運動により維持・改善できることが認められています(3)。
どの年代の方々にとっても、「脳の健康を守るために運動をする」ということが、今後より推奨されていくでしょう。
運動をすると、神経成長因子と神経伝達物質の分泌が増加するとともに、炎症を抑制する効果があります。
その結果、脳の神経を新たに生成・成長させ、認知機能が向上する、と言われています(1) (7)。
脳の大きさは認知機能と関連していると言われています(8)。これまでの研究においても、習慣的な運動によって記憶をつかさどる「海馬」という脳の部位が大きくなることが分かっています(4)。
海馬は脳の老化に先行して30代より萎縮が始まりますが、脳の中で唯一神経の生まれ変わりが起き、何歳になっても萎縮を抑えて、大きくすることも出来る部位です。
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また、運動の中でも、比較的強度の高い筋トレを継続することで、軽度認知障害(MCI)を有する高齢者の認知機能が向上し、海馬の萎縮を抑制できることも分かっています(5)。
なお、認知機能の向上につながる筋トレは、低い強度から高い強度までその効果が認められています(6)。いきなり強度の高いトレーニングをすると怪我をしてしまうかもしれません。専門知識を身につけたトレーナーと一緒に、徐々に強度を上げながらトレーニングを継続してみるのも良いでしょう。
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脳の各部位はそれぞれ異なる役割を担っています。
例えば脳の前部には、自分が立てた目標に対する行動や思考を制御する機能、ポジティブやネガティブな感情を制御する機能があるとされています(9,10)。
こうした脳前部の働きも、運動を継続することで高まり、認知機能が向上すると言われています(11)。近年では、この脳前部の働きが、身体活動と向社会行動(他者や集団の利益となるような行動をとること)に影響していることが明らかになってきています(12)。
認知機能は、脳の大きさを測定して評価するほか、脳波を用いてミリ秒単位といった細かな時間分解能によって評価することもあります。脳前部がつかさどる機能に関する脳波を用いた研究によると、実施している認知課題への注意配分が運動によって増え、結果、認知機能が向上すると言われています(13)。
このように、運動を行うことで我々の体内で分子レベルの変化が生じ、脳神経の成長・脳の大きさの増加や脳活動の活性化につながっていきます。
科学的なエビデンスにおいても、運動が脳の認知機能向上につながることが提唱されています。
週2~3回程度、習慣的に筋トレをすることで、周囲の環境に関わらず、注意すべきモノやコトに適切に注意を向ける認知機能が高まっていくことが示されています(14,15)。
かつては「運動は運動」、「勉強は勉強」と別に考えられてきましたが、近年では科学的にも「文武両道」が提唱されるようになってきました(16)。適切なトレーニングを継続することは、集中力や勉強に必要となる認知機能向上に効果があると考えられます。
人生100年時代と言われる現代において、年齢に関わらず、新しいことを学び、挑戦していくことが大切です。
習慣的な運動によって海馬も鍛えられることで、認知機能が向上し、「学び」に良い影響を及ぼすと考えられます。長い人生において、好奇心を持って新たな知識を得ることは、より豊かな人生につながります。このためにも、習慣的な運動が大切になってくるでしょう。
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最近では、ただ運動をするだけではなく、より脳に刺激を与える形で運動する方が、認知機能の向上につながると言われています。
例えば目から入ってくる視覚情報や、体のバランスを制御する体性感覚などを統合しながら、その場の状況に適した身体活動を行う「協調運動」というものがあります。協調運動を行うと、ただ有酸素運動や筋トレをするよりも、より認知機能が向上すると言われています(17)。
協調運動に加えて、脳トレなどの認知トレーニングを運動と組み合わせることで、認知機能がより向上することが報告されています(18)。「エグザゲーム」のように、カラダを動かしながら認知機能が必要なゲームを行うことで認知機能が向上したり、運動しながら認知トレーニングをすることによって記憶機能が向上すると言われています(19)。
スポーツジムではグループレッスンといった形で協調運動となるトレーニングメニューが提案されています。このようなレッスンには認知機能が必要となるメニューが含まれているため、継続的に参加することで認知機能の向上につながるでしょう。
ご自身の好みに合わせて、認知機能の向上につながる運動を生活の中に取り入れてみてはいかがでしょうか。まずは、興味のある運動から始めていき、身体を動かし鍛えていく中で、自然と脳も鍛えられていくでしょう。
運動が認知機能の向上につながることを説明してきましたが、日常生活で認知機能の向上を実感することはなかなかありません。
子供の頃、自分の身長が伸びているのを自分では実感できなかったように、たとえ運動をして認知機能が高まったとしても、客観的に認知機能を測定できなければ脳の成長を実感することはなかなかないでしょう。
CogSmartでは、海馬の大きさを測る検査「BrainSuite」を提供しています。従来の脳ドックでは計測出来なかった、健康なうちからの海馬の大きさをAIで測定でき、同性・同年齢との比較や、経年変化シミュレーションを確認することができます。
※関連サイト:
BrainSuite(ブレインスイート)公式サイト
また、海馬を育成するアプリ「BrainUp」の開発も行なっており、2024年中のリリースを予定しています。
※関連サイト:
BrainUp(ブレインアップ)公式サイト
スポーツクラブ「メガロス」とは業界初(20)の「海馬にアプローチする脳活パーソナルトレーニング」を2024年6月より提供しています。
「体を鍛えることで、海馬を鍛えるため」には、一定以上の「強度・頻度・時間」が必要です。「脳活パーソナル」では、一人ひとりの体力レベルに合わせて、これをプログラム化しています。
※参考記事:
オヤジはジムでカラダと海馬を鍛える時代です(WebLEON)
これらのサービスをご活用いただき、運動で体と共に海馬も鍛えられること、そして脳の健康を守ることができるということを、ぜひ実感していただければと思います。
健康な脳は、あなたの人生をより豊かにしてくれることでしょう。
執筆・監修
曽我啓史
博士(スポーツ科学)、看護師免許保有、専門統計調査士
東北大学 スマート・エイジング学際重点研究センター 助教
長崎大学大学院医歯薬学総合研究科 客員研究員
参考文献
[※1] Chen C, Nakagawa S. Physical activity for cognitive health promotion: An overview of the underlying neurobiological mechanisms. Ageing Res Rev. 2023 Apr;86:101868.
[※2] Soga K, Kamijo K, Masaki H. Effects of acute exercise on executive function in children with and without neurodevelopmental disorders. The Journal of Physical Fitness and Sports Medicine. 2016;5(1):57–67.
[※3] Law C-K, Lam FM, Chung RC, Pang MY. Physical exercise attenuates cognitive decline and reduces behavioural problems in people with mild cognitive impairment and dementia: a systematic review. J Physiother. 2020 Jan;66(1):9–18.
[※4] Erickson KI, Voss MW, Prakash RS, Basak C, Szabo A, Chaddock L, et al. Exercise training increases size of hippocampus and improves memory. Proc Natl Acad Sci U S A. 2011 Feb 15;108(7):3017–22.
[※5] Broadhouse KM, Singh MF, Suo C, Gates N, Wen W, Brodaty H, et al. Hippocampal plasticity underpins long-term cognitive gains from resistance exercise in MCI. Neuroimage Clin. 2020 Jan 14;25:102182.
[※6] Sanders LMJ, Hortobágyi T, la Bastide-van Gemert S, van der Zee EA, van Heuvelen MJG. Dose-response relationship between exercise and cognitive function in older adults with and without cognitive impairment: A systematic review and meta-analysis. PLoS One. 2019 Jan 10;14(1):e0210036.
[※7] Voss MW, Vivar C, Kramer AF, van Praag H. Bridging animal and human models of exercise-induced brain plasticity. Trends Cogn Sci. 2013 Oct;17(10):525–44.
[※8] Armstrong NM, An Y, Shin JJ, Williams OA, Doshi J, Erus G, et al. Associations between cognitive and brain volume changes in cognitively normal older adults. Neuroimage. 2020 Dec;223:117289.
[※9] Li S, Xie H, Zheng Z, Chen W, Xu F, Hu X, et al. The causal role of the bilateral ventrolateral prefrontal cortices on emotion regulation of social feedback. Hum Brain Mapp. 2022 Jun 15;43(9):2898–910.
[※10] Funahashi S, Andreau JM. Prefrontal cortex and neural mechanisms of executive function. Journal of Physiology-Paris. 2013 Dec 1;107(6):471–82.
[※11] Byun K, Hyodo K, Suwabe K, Fukuie T, Ha M-S, Damrongthai C, et al. Mild exercise improves executive function with increasing neural efficiency in the prefrontal cortex of older adults. GeroScience. 2024 Feb 1;46(1):309–25.
[※12] Ishihara T, Hashimoto S, Tamba N, Hyodo K, Matsuda T, Takagishi H. The links between physical activity and prosocial behavior: an fNIRS hyperscanning study. Cereb Cortex [Internet]. 2024 Jan 31;34(2). Available from: http://dx.doi.org/10.1093/cercor/bhad509
[※13] Kao S-C, Cadenas-Sanchez C, Shigeta TT, Walk AM, Chang Y-K, Pontifex MB, et al. A systematic review of physical activity and cardiorespiratory fitness on P3b. Psychophysiology. 2020 Jul;57(7):e13425.
[※14] Soga K, Masaki H, Gerber M, Ludyga S. Acute and Long-term Effects of Resistance Training on Executive Function. Journal of Cognitive Enhancement. 2018 Jun 1;2(2):200–7.
[※15] Landrigan J-F, Bell T, Crowe M, Clay OJ, Mirman D. Lifting cognition: a meta-analysis of effects of resistance exercise on cognition. Psychol Res. 2020 Jul;84(5):1167–83.
[※16] Kuroda Y, Ishihara T, Kamijo K. Balancing academics and athletics: School-level athletes’ results are positively associated with their academic performance. Trends Neurosci Educ. 2023 Dec;33:100210.
[※17] Ludyga S, Gerber M, Pühse U, Looser VN, Kamijo K. Systematic review and meta-analysis investigating moderators of long-term effects of exercise on cognition in healthy individuals. Nat Hum Behav. 2020 Jun;4(6):603–12.
[※18] Rieker JA, Reales JM, Muiños M, Ballesteros S. The Effects of Combined Cognitive-Physical Interventions on Cognitive Functioning in Healthy Older Adults: A Systematic Review and Multilevel Meta-Analysis. Front Hum Neurosci. 2022 Mar 24;16:838968.
[※19] Anderson-Hanley C, Arciero PJ, Brickman AM, Nimon JP, Okuma N, Westen SC, et al. Exergaming and older adult cognition: a cluster randomized clinical trial. Am J Prev Med. 2012 Feb;42(2):109–19.
[※20] 一般販売としてスポーツクラブの業界初。当社調べ